Project

主役は既存産業。オープンイノベーションで長野県をさらに豊かにする。

2022.2.28

信州ITバレー構想とオープンイノベーション

NAGANO-OIC2021

主役は既存産業。オープンイノベーションで長野県をさらに豊かにする。

「信州ITバレー構想」は、県内既存産業のデジタルトランスフォーメーションを促進し、IT産業の集積地化によって新たな経済基盤を確⽴することを⽬指した産業クラスター構想です。2021年には、長野県内の企業と日本全国のスタートアップ企業の共創をうながし新たな価値を生み出す「NAGANO-OIC 2021」を経済産業省関東経済産業局、長野県、八十二銀行と共に実施しました。「OIC」とは「オープンイノベーションチャレンジ」、つまり自社だけでは生み出せない新たな価値を、賛同する様々な企業・団体と共に生み出していくことです。

そこで、なぜ今「信州ITバレー構想」が必要なのか、長野県内の企業にとってどんな意味があるのか、オープンイノベーションがなぜ重要なのかなどについて、「信州ITバレー構想」を実現するために生まれたNICOLLAP(一般社団法人 長野ITコラボレーションプラットフォーム)理事、荒井 雄彦氏に語っていただきました。

NICOLLAP 理事

荒井 雄彦

時代や産業構造の変化に脅かされない長野県を目指して

長野県が掲げる「信州ITバレー構想」とは、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

荒井

長野県は製造業が盛んな県です。特に、精密機械や自動車関連の中間部品の製造工場が多くあります。これ自体はもちろん素晴らしいことなのですが、時代の変化に合わせて新しい事業を生み出す企業は少ないという課題感がありました。新しい事業を生み出せないというのはどういうことかというと、時代の変化や産業構造の変化に影響されやすいということです。例えば、昨今自動車のEV化やシェアリングエコノミーの浸透が著しいですが、もし既存の自動車産業が縮小したら、長野県内にある部品工場も影響を受けます。

現代はICTの普及によって変化の早い時代です。消費行動やトレンドがどんどん変わる中、長野県内の企業もこの変化についていかなければなりません。そこで長野県をIT産業の集積地にしようと生まれたのが「信州ITバレー構想」です。

「変化」は、今まで積み上げてきたものを「捨てること」ではない

なるほど.. 世の中の「変化」に対応できる拠点を県内につくって、新規事業を生み出していこうと。

荒井

はい。ただ、こういった話をすると、「既存産業をないがしろにするのか?」「IT産業だけ優遇するのか?」と思われる方もいらっしゃいますが、そういうことでは全くありません。「信州ITバレー構想」の主役は、あくまで長野県内の既存産業のみなさんです。県内の企業のみなさんと日本全国のスタートアップ企業をつなぎ合わせて、課題を解決して新たな価値を生み出し、さらに栄えていくための取り組みです。既存産業をないがしろにするものでも、今まで培ってきたものを捨てろということでもありません。今ある価値にベースを置きつつ、新しい価値を生み出していくための取り組みです。

社会課題の解決とオープンイノベーションの必要性

企業にとっても新しい価値をみつけていくことが、変化の中で生き残っていく道だということですね。

荒井

そうですね。「新しい価値を生み出す」と言葉にするのは簡単ですが、それまで既存事業だけに集中してきた企業が新しい事業を生み出すのは大変なことです。そこで重要な目線が「社会課題にフォーカスすること」です。当たり前の話ですが、自社の一方的な目線で新たな事業を始めても、社会から求められなければ広がらないですよね。そして、社会課題の解決は1社では到底無理です。そのために、「信州ITバレー構想」ではオープンイノベーションに重きを置いています。オープンイノベーションとは、簡単いうと課題に対して1社ではなく複数社で取り組んで新たな価値を生み出すことです。自社が感じる社会課題は何かを深掘りしていき、課題感を世の中に発信する。そして、自分たちは課題に対して何ができるかを伝えて、それに共感する仲間を全国から集めて、新規事業を立ち上げるのです。

社会課題の解決とオープンイノベーショNAGANO-OIC 2021」で生まれる新たな価値

企業にとっても新しい価値をみつけていくことが、変化の中で生き残っていく道だということですね。

荒井

まさにその通りです。まず2021年に「NAGANO-OIC 2021」というプロジェクトをスタートしました。これは、⻑野県内の企業と全国のスタートアップの共創による新規事業創出を目指したプロジェクトになります。初年度は県内から長野朝日放送株式会社、株式会社ミールケア、VAIO株式会社の3社にエントリーいただきました。

まず、それぞれの企業が感じる社会課題を深掘りして、「NAGANO-OIC 2021」でどんな課題解決を実現したいか、そのために活用できる自社のリソースは何なのかを洗い出しました。その内容を、オープンイノベーションプラットフォームを活用して全国のスタートアップに伝えたところ、1社に対して20社前後の協業の提案が届きました。この中から各社2社くらいまで協業パートナーを絞り込み、実証実験を行っています。たとえば給食事業を営んでいるミールケアさんの取り組みでは、フーロドスといった社会課題解決に向けて、廃棄予定食材の乾燥・加工システムを展開するスタートアップ企業と、新商品開発に挑戦しました。これは、単なる商品開発ではなく、地域の生産者、小売店、物流等の事業者と連携した、食の循環スキームを目指す動きに繋がっています。これが社会から求められる新規事業の芽になるのです。

今後も「NAGANO-OIC」の取り組みを継続することで、県内の既存企業さんと全国のスタートアップをつなぎ合わせていき、結果的に長野県を新たな価値を生み出すIT産業の集積地にすることを目指します。それが、長野県の産業が、そして長野県で生活するすべてのみなさんが豊かになる解決策だと確信しています。